不思議の国のアリス



年をとってきたということか、ファンタジーの世界を見たくなっている。ゲド戦記、ナルニア国ものがたり、モモ、星の王子様、ネシャン・サーガなど、心に残る作品は多い。よく年をとるほど子供に還ると言うが、その現われなのだろうか。そういえば、最近のことは思い出せないのに子供の頃の記憶ほど鮮明に思い出すことができる。これは痴呆の現われかもしれないが、別の意味があるような気がする。現実の世界に疲れた大人たちは、夢の世界を求めている。夢といえば子供の頃描いていた世界。大人になったらこんなことをしたいと必死で考えていた頃が夢のように蘇る。そしてその世界に浸りたいとあこがれる。それが今の現実の世界を見せないように、忘れさせようとしているのではないだろうか。新藤兼人の映画「午後の遺言状」が悲しくもそんな世界を描いていたと思う。
 さて今日の本題は「不思議の国のアリス」である。昔から読み継がれてきた名著である。作者のルイス・キャロルは本名をチャールズ・ラトヴィッジ・ドジスン(1832-1898)と言って、イギリスの数学者である。この話はキャロルが30代のころに古典学者であるリデルの10歳になる娘アリスのために書いたものである。アリス本人もこの話をわくわくしながら読んだに違いない。
ぼくがこの本を本屋で見かけたとき、まず眼に入ってきたのが「トーベ・ヤンソン 絵」という文字だった。トーベ・ヤンソンと言えばよく知られているように子供の頃テレビ放映されていたムーミンの原作者である。ムーミンは毎週かかさず楽しみに見ていた。いじわるなリトルミーがふと見せるやさしさ、ムーミンパパとムーミンママの愛情、そしてスナフキンの不思議な魅力・・・。そんなことを思い描いていたら、ついアリスを購入してしまっていた。衝動買いとはいえ、この選択は当たりだった。「星々の舟」で直木賞を受賞した村山由佳の新訳も良かったし、トーベ・ヤンソンの挿絵がそれを盛り上げている。

-----------------------------------
「不思議の国のアリス」(メディアファクトリー(株)、本体1500円)
記:2006/8/12