アマチュアの強み



家の天体望遠鏡は庭に設置されている。ただし、観測室を作っているわけではなく、極軸合わせをした赤道儀がコンクリの台座の上にちょこんと載っているだけのシンプルな作りだ。悪く言えば雨ざらし状態。もちろん雨を防ぐために全体をビニールで覆っている。これだけのセットを庭に据え付けて置くだけで観測が億劫なく行なえる。見たいときには鏡筒を赤道儀に載せるだけでいい。極軸のセッティングからやらなければならないとすると、そのために使う労力は相当必要になる。それも毎日の観測となると尚更だ。若いうちはそれでも根性でやれるだろうが中年以上になるとはっきり言ってきつい。ぼくの観測、主に天体写真撮影はこんな俄か観測所でも十分に機能を果たしている。
 中にはここで紹介するようなアマチュア天文家もいる。こつこつと基礎工事から始め、ルーフ付き観測所を一人で完成させた著者の粘り強さには感服してしまう。「ぼくはいつも星空を眺めていたー裏庭の天体観測所」(ソフトバンククリエイティブ発行)は12ヶ月に章分けして、各月の星空紹介から天文の話題、そして家族や知人との交流を含めた観測所製作秘話などが語られている。特に子供との会話やこちらの出方を知っている妻との望遠鏡の購入についての駆け引きなどがおもしろい。ああ、同じようなことを彼もやっているんだと思って、思わず苦笑してしまった。

 著者は「9.11をきっかけとして、わたしはふたたび星への情熱を取りもどした。そしてアマチュア天文家の夢ー自分の天体観測所づくりに乗り出した」のだった。
 ぼくも2001年の9.11の記憶は未だに残っている。夜の11時頃天体観測を終えて部屋に入った時、息子がテレビであのシーンを見ているところだった。「まさか嘘だろう」と思ってしまったが、本当に起こったことだとわかったときは衝撃を受けた。
 その9.11の後、著者が娘を乗せて家にたどりつき車から降りると娘が星が綺麗なのに感激している。彼はそのときまで日々の生活に追われ、空を見上げるのをまったく止めてしまっていた。娘につられて空を見上げると星が煌々と輝いている。むかし天体観測をしていたときの気持ちが沸々と湧いてくる。今まで無理やりその気持ちを押さえていたことを知る。それがきっかけとなって自宅に天体観測所を作り始めることになるのだ。
 アマチュアは何にでも興味を示し、知らないことがかえって怖さを物ともせずに突き進むものだ。そこが職業としているプロと違う強みを持っていると思う。広く浅くでもいいではないか。そのうちに特に興味を持つものが出てきてプロ顔負けの成果を上げることもある。新星・小惑星・彗星の捜索、変光星の観測、日月食観測、星空写真などなど数え上げれば切りが無い。それも自分で考えての選択である。好きなことに熱中する、感動する、自分流に観測する、これが星と長く付き合う秘訣と言えるだろう。
記:2006/9/18