中村屋のボース




アジア諸国との関係が悪化している昨今、現在の状況を生み出す元になっているところを考えさせてくれる本がこれから紹介する「中村屋のボース」(白水社)である。中島岳志氏による本書はR.B.ボース(1886-1944)というインド独立運動の闘士を通した日本とアジアの姿を活写している。「中村屋のボース」という題名に奇異な感じを持った方も多いのではないかと思うが、決しておかしな題名では無いことが本書を読むと納得できる。中村屋は新宿中村屋のこと。そしてそこのレストランで有名な一品が「インドカリー」。未だにカレーとは言わずにカリーで通している根強い人気のメニューである。このインドカリーにボースが関係している。中村パン屋の創始者である相馬愛蔵と黒光の娘・俊子とボースは結婚している。インド独立運動の闘士であるボースは日本に亡命・帰化して、外部からインド独立に一生を捧げた。インドがイギリスの植民地支配から独立したのが1947年、ボースは念願であったインド独立を見ることなく3年前にこの世を去っている。ボースの思想、日本人・アジア人との付き合い、インド独立に賭けた執念と苦悩、彼が生きた時代背景などを本書から読み取ってほしいと思う。今、関係悪化している日本と中国や韓国、北朝鮮などとのアジア外交を読み解くのに一つの指針を与えてくれると思う。
尚、本書は「第5回大佛次郎論壇賞」と「アジア・太平洋大賞」を同時受賞した。
新宿中村屋
著者略歴
1975年、大阪に生まれる。
大阪外国語大学(ヒンディー語専攻)卒業。
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。
現在、京都大学人文科学研究所研修員、日本学術振興会特別研究員。
著書に「ヒンドゥー・ナショナリズム」
「ナショナリズムと宗教 現代インドのヒンドゥー・ナショナリズム運動」
2006/2/17 記