レイ・ブラッドベリ



ブラッドベリの作品で最初に手にしたのは「火星年代記」(1950年)でした。ロック・ハドソン主演でテレビドラマ化したものを見たのがきっかけでした。その後「華氏451度」(1953年)、「ウは宇宙船のウ」(1962年)などを読みましたが、中でも印象に残ったのが「たんぽぽのお酒」でした。12歳の多感な少年の愛と孤独と夢と成長を詩的に表現した傑作だと思っています。読み終えたときはこれが一冊の完結したものと思っていましたが、最近になって、その続編となる「さよなら僕の夏」が発売されました。「たんぽぽのお酒」(1957年)を書いた当時、すでに二つを合わせた原稿が出来上がっていましたが、あまりの長さに出版社から後半部分はカットして、何年か後に機が熟したときに出版したらどうかということになったそうです。ブラッドベリは、それを50年もの間暖め推敲を重ねてやっと今出版に踏み切ったということです。すごいことですね、これって。90歳にもう少しで届くというブラッドベリの心の中には常に少年のダグラス(通称ダグ)がいて、今も輝いているということなんですね。後編にあたる作品では14歳になろうとするダグとすばらしいおじいちゃんとのやりとり、弟トムとの愛情、そして老人と拒みつつも大人になり始めようとする少年との戦いとその後の理解の芽生え、大人への兆しとも言える性の目覚めなどが詩情豊かに語られています。自然に囲まれたイリノイ州のグリーンタウンを背景に織り成す物語。読み終えた後、心の安らぎと同時に生きることのすばらしさをあらためて感じることができました。6月に摘み取ったたんぽぽをビンにいっぱい詰めて寝かしてお酒になるころ、少年である主人公たちはその味を少し味わいます。この核となる部分が全体を物語っています。大人に成りたくない気持ちと大人への憧れが微妙に入り混じったちょっとほろ苦いたんぽぽのお酒。生きることのすばらしさを感じ始める少年と、世代交代を受け入れる老人とのやりとりを通して、生命連鎖を素直に受け入れることの必要性を強く感じました。


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レイ・ブラッドベリ (Raymond Douglas Bradbury 1920〜)
アメリカ・イリノイ州生まれの小説家、SF作家、ファンタジー作家、怪奇小説家、詩人そのほか多彩の顔を持っています。。少年時代に、世界最初のSF誌「アメージング・ストーリー」やバローズの「火星シリーズ」に影響を受けて、12歳から創作を開始。現在までに500編にものぼる長短編、詩、エッセイ、戯曲、映画台本を発表しています。ジョン・ヒューストン監督の映画「白鯨」の脚本も担当しています。現在、ロサンゼルスに在住。

主な作品
【長編】
・華氏451度 (Fahrenheit 451)
・火星年代記 (The Martian Chronicles)
・たんぽぽのお酒 (Dandelion Wine)
・ハロウィーンがやって来た (The Haloween Tree)
・何かが道をやってくる (Something Wicked This Way Comes)
・死ぬときはひとりぼっち (Death is a Lonely Business)
・黄泉からの旅人 (Graveyard for Lunatics: Another Tale of Two Cities)
・塵よりよみがえり(From the Dust Returned)

【短編】
・黒いカーニバル (Dark Carnival)
・刺青の男 (The Illustrated Man)
・太陽の黄金の林檎 (The Golden Apples of the Sun)
・十月はたそがれの国 (The October Country)
・メランコリーの妙薬 (A Medicine for Melancholy)
・よろこびの機械 (The Machineries of Joy)
・ウは宇宙船のウ (R Is for Rocket)
・スは宇宙のス (S Is for Space)
・キリマンジャロ・マシーン (I Sing the Body Electric)
・歌おう、感電するほどの喜びを! (I Sing the Body Electric)
・ブラッドベリは歌う (I Sing the Body Electric!)
・とうに夜半を過ぎて (Long After Midnight)
・万華鏡 (The Vintage Bradbury)
・十月の旅人 (The October Game and Other Stories)
・火の柱 (Pillar of Fire and Other Plays)
・火星の笛吹き (The Piper)
・悪夢のカーニバル (A Memory of Murder)
・恐竜物語 (Dinosaur Tales)
・バビロン行きの夜行列車 (Driving Blind)
・二人がここにいる不思議 (The Toynbee Convector)
・瞬き(まばたき)よりも速く (Quicker Than the Eye)

【ノンフィクション・エッセイ】
・ブラッドベリがやってくる - 小説の愉快 (Zen in the Art of Writing)
・ブラッドベリはどこへゆく - 未来の回廊 (Yestermorrow)
記:2007/10/15