ファインマン物理学



 庭の巣箱のシジュウカラが孵り、昨日巣立ちをした。親鳥がエサをくわえながらしきりに声を張り上げてヒナを導く。ヒナは飛ぶ力が弱いながらも親鳥を必死に追いかけている。一人立ちできるように親鳥も必死だ。巣箱から飛び立つ前までは親鳥は一日中飛び回ってはエサをヒナたちに与えていた。ここ2〜3週間、ベランダから小鳥達の声を聞きながら、物理の本を読み進めていた。 

巣立った雛

大学の物理学専攻の人たちにとって、いまだにバイブルとされている本に「ファインマン物理学」がある。リチャード・P・ファインマンが1961年から二年間にわたってカリフォルニア工科大学で行なった講義録を下敷きにした大部の物理学教科書である。日本語訳では全5冊、2000ページ近い大分量の本であるため、最後まで読み通すためにはそれなりの覚悟がいる。ぼくも大学の物理学科に通っている時分、この本を図書館で借りては読んでいたが理解に苦しむ点も数多くあった。最近になって、物理を再び勉強したくなり、アマゾンで本を探していたときに出会ったのが、竹内薫さんの「ファインマン物理学を読む」という3巻本である。これは朝日カルチャーセンターで行なわれたものをまとめたもので、非常に分かりやすく書かれている。この本はファインマン物理学の解説本とも違いファインマンが伝えたかった思想を読み解くことを主体にしている。ファインマン物理学を読み進める上で役立つことが随所に見られる。巻ごとの解説ではなく、必要に応じて違う巻にも飛びながらファインマンが伝えたかったことをまとめている。量子力学から始めているのがいい。ニュートン力学から入り、最後に量子力学で終わるというのが通常のコースだ。これだと量子力学に到達するころには、みんな息を切らしている状態である。現代の物理学が量子力学と相対性理論を基礎に置いていることを考えると、この入り方は最適であると思う。この本を読みながらあらためて物理の世界に魅力を感じ始めている。
ファインマン物理学は、シジュウカラの親が雛を導くように、物理の魅力を学生達に教えている。それも彼独特の方法で。ボンゴを叩いているファインマンの姿はよく眼にする。興味あることには自分で徹底的に考え抜いて納得するまで頑張るというのが彼のやり方である。そのやり方を将来の人材を育てるということに向けて情熱を傾けたのがファインマン物理学と言えるのではないだろうか。 
 

ファインマンRichard Phillips Feynman:1918-88)は1918年にニューヨークのユダヤ人の家庭に生まれた。MITやプリンストン大学に学ぶ。1941年〜45にかけて原子爆弾の開発プロジェクト「マンハッタン計画」に参加したが、自分達が開発した原爆が広島・長崎に落とされたことを聞き、終戦後、科学者のあり方に非常に悩んだようだ。1965年、量子電磁力学の発展に寄与したことで、ジュリアン・S・シュインガーや朝永振一郎と共にノーベル物理学賞を受賞する。ファインマンのエピソードとして『ご冗談でしょう、ファインマンさん』がなかなかおもしろい。
     
     記:2008/5/17