チェックメイト



アービタックス治療は不発に終わった。CT検査や血液の腫瘍マーカー検査はどちらもいい方には向かっていなかった。患部のCT画像を見ると、大きさはほとんど変わっていないが、前に比べて画像が濃くなっている。ということはガンがいまだ健在で活発化しているということだ、腫瘍マーカー値も規定値を超えている。というわけで、アービタックス治療は中止と決まった。これは、仕方のないことではあるが、さて、その次の治療はどうなるかが問題だ。医者の話では、抗がん剤に関しては手詰まり状態だ。認可されている抗がん剤は、今まですべて使ってきている。残された道は抗がん剤の治験薬を受けるかどうか、あるいは民間療法などを採用するかということである。
 現在知られている抗がん剤以外の治療法としては、温熱療法、免疫療法、その他がある。ガンが高温に弱いことを利用した温熱療法。体の免疫力を高めてガンを克服する免疫療法。
電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)は、ひとつの選択肢と考えられるが、放射線治療が温熱療法に取って代わった経緯を考えると、この治療法はどうしても一昔前の治療法の感じがしてしまう。補助的に使うのであればいいかもしれない。
免疫療法は、いいらしいことは解るのだが、費用がばかにならない。総額約300万円くらいはかかるという。さらにこの治療は保険の対象にならないので、まったくの自費で賄うより仕方がない。そのためこれはちょっと手を出しにくい最後の手段になってしまう。
 こう考えてくると、製薬会社が主導する、あるいは医師が主導する治験薬なものが残る。治験とはまだ承認されていない薬を患者へ投与してその効果を確かめ、厚生労働省の認可を得るための手段である。治験への参加ということは、ひとつの賭けが伴うことは確かだろう。
効くか効かないかが、はっきりしていないのだから。しかし冷静によくよく考えてみれば、認可されている薬でも今まで効かなかったではないか。というわけで、治験に参加することに決めた。今月末から1ヶ月ほど入院することになる。薬を投与しながら、副作用等の諸症状を詳しく検査しなければならないからだ。治験の唯一の利点は、入院費を含めてすべて無料で治療が受けられるということだ。そして、通いの場合には交通費という名目で手当てが支給される。何人くらいの患者が参加するのかわからないが、これらの治験の仕組みを考えたとき、抗ガン剤を含めた新薬の開発に莫大な費用がかかるのがわかるし、その結果として認可された薬の価格が高くなるのを理解できるのである。
チェックメイト! 追い詰められた状況に見えないこともないので、まいっているかと言えば不思議に心は落ち着いて穏やかである。むしろ一層やる気が出てきた感じだ。一ヶ月入院であれば自由時間が多く取れるということで、そのおかげで本をたくさん読めるので、今から何を読もうかと楽しみにしている。 
 (記:2009/3/5)