望遠鏡の発明は誰?



その疑問に導かれていったのは、一通のメールでした。そのメールは「ザアハリアゼン」のことを知りたいというもの。ぼくのホームページの「光学・天文の歴史」に記載されていることからの問い合わせでした。ぼくとすればザアハリアゼンの事実をどこから仕入れてきたかをすでに忘れていました。何回かのメールのやりとりの後に、やっと光が見えてきた。

光学技術ハンドブック」(久保田宏他編、朝倉書店刊)の中に合田軍太夫さんが書かれた「光学技術史」があった。その中に以下のように書かれている。

何はともあれ、レンズがいわゆる光学器械の光学系として登場しはじめたきっかけは、オランダの眼鏡師リペルシェ(Hans Lippershey,1570-1619)およびヤンセン(Zachariassen Janssen,1588-1632)などによってつくられたといわれる。
1604年にはオランダのミッテンブルグの眼鏡研磨工であったザアハリアゼンが遠くのものを近づけてみる眼鏡(つまり、望遠鏡)を発明したといわれ、1608年にはリペルシェによってオランダ式望遠鏡をつくって、製作販売したともいわれる。


ぼくが「光学・天文の歴史」に書いたのは、おそらくこの記事から得たのだと思う。ただ望遠鏡発明者をザアハリアゼンと表示したために要らぬ混乱を読者に与えたのだと思う。上の文章をよく読めばザアハリアゼンはヤンセンのことであることがすぐにわかる。ヤンセンは顕微鏡の発明者として世間には知られている。

次に「望遠鏡光学・屈折編」(吉田正太郎著、誠文堂新光社刊)には

ザカリヤス・ヤンセンが1590年に望遠鏡を発明したことを、ザカリヤスの子が証言したとか、J.A.メチウス(編注:Adriaanszoon Metius (1571-1635) )が望遠鏡を作ったともいわれていますが、その証拠がはっきりしません。
リッペレイもヤンセンもメチウスもミッデルブルグのメガネ職人で、同じギルドの人たちですから、発明者を特定しようとしても無理なのかもしれません。ギルドというのは、中世ヨーロッパの都市の手工業者の同職組合です。


とあります。こうなると特定の人が発明したというよりは、偶然誰ともなく仲間内で見出されたものとするのが適切だと思えてくる。リペルシェの名は特許を申請したりしているために、その名が後世に残り、彼が望遠鏡発明者であるという印象を強くしているのではないだろうか。
この場合もそうであるが、人名や地名は日本語で表記するときにさまざまに表現されるので、まぎらわしいことも多い。リペルシェ=リペルスハイ=リッペレイなどはそのひとつの例であるが、この違いは英語読み、オランダ語読み、ドイツ語読みなどの発音の違いからくるのだろう。

望遠鏡ー 美しい星の像を求めて」(広瀬秀雄著 中央公論社刊)によると

望遠鏡がいつ、だれによって発明されたかということは、1620年ころにはもはやわからなくなってしまっていた。偶然事象はとかく記録に止められないものであるから、この事実もまた望遠鏡偶然発明説の傍証ではなかろうか。

とある。やはりここでも誰彼が初めに望遠鏡を発明しかたについては不明としている。

追記:「光学・天文の歴史」では、ヤンセンを望遠鏡の発明者として記載しておきましたが、真相は闇の中のようです。


Zachariassen Janssen


Hans Lippershey
2005/4/2記