レンズ設計の進め方
(アクロマートレンズの場合)


レンズ設計は、難しく考えると難しいものですが、気軽に遊び感覚で設計することもできます。その1つの例としてアクロマートレンズを取り上げてみましょう。

1 .レンズの口径(レンズ直径)と焦点距離を決める

ここでは、レンズ径を60mm焦点距離を600mmとしましょう。
「アクロマート設計」アイコンを選ぶと「凸レンズガラス名」、「凹レンズガラス名」、「焦点距離」を書きこむ蘭が表示されます。標準的なレンズとして、凸レンズとしてBK7、凹レンズとしてF2、焦点距離を600mmとしてみましょう。OKをクリックすると、計算結果が表示されます。この場合、レンズ径には関係無く、球面収差とコマ収差が小さくなるようなそれぞれの面カーブを自動計算してくれます。

計算結果のR1〜R4までの数値がアクロマートレンズの初期データとなります。上のデータはレンズの厚みが考慮されていない初期データです。
2 レンズデータを作成する
「レンズデータ表」アイコンをクリックして、表の左側のNO.の4をクリックします。今設計しているのが2枚のレンズなので、4面あることを意味しています。そうすると「レンズ最終面」のポップアップ画面が表示され、そこに4の数字が書きこまれているはずです。そこでOKをクリックすると、「レンズデータ表」が4面だけの表に変わります。

1で求めたRの数値をそれぞれ入力し、間隔として、1面には凸レンズの中心厚(例えば10mm)、2面には凸レンズと凹レンズの空気間隔(例えば0.05mm)、3面には凹レンズの中心厚(例えば5mm)、4面にはとりあえず焦点距離の600mmを入力します。
ガラスとしては1面にBK7、3面にF2を入力します。2面と4面は空気なので、AIRのままにしておきます。
口径は1〜4面まで60mmを入力すると下表のようになるでしょう。レンズ名としては「60mmアクロ」としておきましょう。

そして、「近軸データ表示」をクリックすると、焦点距離などの数値が表示され、初期データ作成が完成しました。
ここで、一度このデータを保存しておいた方がいいでしょう。この表の上の方に像距離とあるのが、黄色の線(D線)の凹レンズの後面からピント面までの距離を表しています。

「描画」アイコンか、上の「連続光線追跡」アイコンをクリックすると、レンズが表示されます。拡大表示アイコンを2回クリックすると下の図になります。
3. 球面収差図を表示させる
「球面色収差」アイコンをクリックして、「開始」をクリックすると、球面収差図が表示されます。球面収差図を見ると、色の散らばり具合などの性能を瞬時に読み取ることができます。

図を見ると青と赤の線が交わっていて、右側に紫、左側に緑と黄色の線が描かれています.。線が大体まっすぐに上に伸びていれば、レンズの性能はいいと思ってください。アクロマートレンズの特徴は青と赤の光を同じピント位置に持ってくることにあります。ですから他の色に対しては色のにじみが出ます。これらの色のにじみを取るのにはガラスの組み合わせを変えてやったり、レンズ枚数を多くしたりしなければなりません。
4 スポットダイアグラムを表示させる
「スポットダイアグラム」アイコンをクリックして、スポットダイアグラムを表示させます。ここで、「像距離」として、レンズ近軸データの「593.902」を入力してもいいのですが、赤と青の色が重なる位置での像の様子を見た方がいいので、球面収差図から赤と青が交わっているあたりの横目盛を読み取ります。この場合1目盛が0.200mmなので0.300mm右に寄っているのがわかります。ということは黄色の線よりも0.3mm後ろにピントが合っているということになります。そこで、像距離として594.202(←593.902+0.300)を代入します。その状態で赤を選んで開始ボタンをクリックするとあかの光のスポット図を描きます。続いて青を選んで同じように表示させると、前の図に青のスポット図が重なって表現されます。スポットダイアグラムを見ると、青と赤がほとんど重なっているのが解かると思います。図の1目盛が0.01mmスケールなので像の大きさとして中心で0.01mm以下に押さえられていることがわかるでしょう。1度の入射角に対しては縦方向に0.03mmくらい伸びているのもみてとれます

アクロマートの性能としては、これで充分でしょう。このレンズデータを保存しておきましょう。今回の場合は何の修正もせずに、それなりのレンズ設計ができましたが、通常はこの後に、面のカーブを少しづつ変化させながら、球面収差の変化をみていくことで修正を加えていきます。普通、球面収差の線が右か左に傾いていたり、色収差の具合が悪かったりするものです。
4 ベンディング
球面収差やスポットダアイグラムの像が悪いようであれば、レンズの形状を変化させるベンディングなどのコマンドを使って変化させてやると、いいレンズに持って行くことができます。この辺の手法については、レンズ設計の本などを参考にするか、ご自分で適当にいじってみると解かってくるものです。
1つのレンズの焦点距離を変えずに前と後ろのレンズのカーブを同時に変えるのがベンディングという手法です。
ですから、例えば今のアクロマートの凸レンズのベンディングを考えてみることにしましょう。ベンディング開始面を1、終了面を2にし、ベンディング量(適当にやってみて変化が大きいようであれば小さい量、修正方向が逆であれば+で入力してやります)を-0.00001としておきましょう。これで実行して、球面収差を再描画させると、下の図のように線が少し左側に傾いてきたのがわかります。こういったやり方をそれぞれのレンズやレンズ全体などに施して、何回か繰り返すことによって、レンズの性能を上げていくわけです。


どうしてもうまくいかない時は、違うガラスの組み合わせやレンズ枚数を多くしてみるのもいいでしょう。レンズ設計というのは多くのレンズを設計しているうちに、しだいにコツがわかってくるものです。
レンズの特許データなどは、レンズの特徴などを研究するのに、いい材料になります。