パール判事

東京裁判批判と絶対平和主義



東京裁判で、一人だけA級戦犯の全員無罪の判断を下したパール判事に関する本が出版されました。著者はインド学では、その名が知れている中村岳志です。「中村屋のボース」を著した人です。パール判決書は長大で難解な文章で書かれているため、それを全文読み通してその判断の内容を再吟味するには、それ相応の努力が必要とされます。上っ面の内容だけで、A級戦犯に罪は無いとか、日本の戦争は合法的だったというような曲解が右派勢力によって採られていることに真っ向から反対しています。下記の出版社のコメントにもあるとおり、パールは日本が無罪であることを言っているのではなくて、『この裁判がいわゆる事後法に基づく「遡及処分」=法律が未成立な状態での罪の裁定であり、近代法の原則を無視した戦勝国の一方的断罪の様相を呈するゆえに「法的に被告は無罪」』とA級戦犯の被告に対してのみ主張しています。日本という国の罪について裁く裁判ではなかったのです。検察側は満州事変以後の戦争拡大の背景にA級戦犯による共同謀議を立証しようしていましたが、それが成立しないことを論理的に証明してみせたのがパル判決書であったわけです。それがなぜ後の日本無罪論というような間違った判断材料になってしまったかは、田中正明のパール判決書について書かれた「日本無罪論」という本にあるようです。本の題名もそうですが、その内容において事実を捻じ曲げた記載が随所にあることです。この本がその後の東京裁判の評価に対するひとつの指針になってしまったことがその原因と言えそうです。田中の本に疑問を持ち改めてパル判決書を読み解いた東京裁判研究会の「共同研究 パル判決書」を評価すべきでしょう。。

出版社のコメント:
『文庫本にして1400ページにもわたるレポートがある。ある裁判に提出するため一人のインド人裁判官が東京で1948年に書き上げた文書だ。
 その裁判とは「極東国際軍事裁判」。いわゆる「東京裁判」だ。ラーダービノード・パールは、11の国から派遣された裁判官のうち、唯一、この文書で被告人(A級戦犯)全員を無罪と宣した判事であった。
 「日本が無罪」ということではない。この裁判がいわゆる事後法に基づく「遡及処分」=法律が未成立な状態での罪の裁定であり、近代法の原則を無視した戦勝国の一方的断罪の様相を呈するゆえに「法的に被告は無罪」ということなのだ。
 <戦いに勝てば、その戦争は防衛戦となり、正当化される。そして勝者は敗者を裁く権利をもつ>......これが慣習化されれば、どのような「侵略」戦争も「自国防衛」の名の下に正当化されることになるだろう。パールはその危惧を、東京裁判を批判する意見書に託したのだ。
 パールは裁判の後も、日本を何度も訪ね、「世界連邦」の樹立と日本の再軍備反対・平和憲法の死守を訴え、発言した。「(原爆を)落とした者の手はまだ清められていない」「武装によって平和を守る、というような虚言に迷うな」と......。 』

東京裁判は、戦勝国による軍事法廷であったため、当然のことながら戦勝国の理不尽な行動については裁かれていません。広島・長崎への原爆投下などは戦争終結のために必要不可欠の事柄であったとして問題視されていません。パール判事はこのことにも不満を持っていたようです。パールにはガンディーの非暴力、絶対平和主義の思想が色濃く影響し、それを一生涯、貫き通したと言えそうです。

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●「パール判事―東京裁判批判と絶対平和主義」(白水社)中村岳志著
●「パール判事の日本無罪論」(小学館文庫)田中正明著
●「共同研究 パル判決書」(講談社学術文庫)東京裁判研究会
記:2007/10/21