地球の隣人達



天体写真を撮り始めてから、なかなか物にならなかったのが惑星だった。月や太陽に比べると望遠鏡で見ても大きさが小さく表面の模様を撮るのも大変。木星写真まず大気のゆらぎの影響を受けやすくピンボケ写真になりやすいからだ。一枚のいい写真を撮るためにフィルム一本はすぐに使ってしまうというありさまだった。それでも一本で済めばいい方でそれでもだめということがたびたびだった。銀塩写真時代には引伸ばし機で印画紙に焼き付けるときに重ね焼きというテクニックを使ったが数枚ではあまり効果が期待できなかった。それでも木星はまだ写る方で、土星、火星になるとしだいに難しくなる。当時は金星にまだ手を出していなかった。
惑星写真に関しては、ここにきてWEBカメラを使った1000枚近い画像の重ね合わせという技術が確立されてからは一番苦手だった火星・金星にも手が出せるようになった。
これまで写してきた惑星の写真を振り返ってみることにする。


★木星

 木星はマイナス2等くらいまで明るくなるし、視直径も45秒程度になるので、比較的写しやすい対象と言える。惑星の場合には少なくとも望遠鏡の倍率は100倍以上かけないと模様はよく見えない。倍率が高い分、大気のゆれの影響も受けやすくシーイングのいい日を選ぶことが成否を決める。撮影の場合、ただむやみに倍率を高くしても露出時間を長くしなければならないので適度な倍率を選ぶことも大切だ。木星写真では縞模様の変化を撮ることが主なことになるが、アマチュア受けするものに衛星とその影の写真がある。右の写真でも、一番上では衛星とその影が、下の写真では衛星の姿が写っている。ガリレオもこんな衛星の動きを観察していて地動説に確信を持ったのだろう。縞模様の中に大赤斑が写っているとうれしくなってくるものだ。撮影時刻にどの辺の模様が見えるかはステラナビゲーターなどの市販の天文ソフトが役に立つ。あとは撮影後に画像の重ね合わせなどに使うレジスタックス(Registax)というフリーソフトをネットからダウンロードしてくればいい。昨今はそんな天文グッズをフル活用して撮影している。木星の模様は木星がガス体であるためにその表面に見えている模様も長い期間観測していると変化していく。言わば地球の大気の模様を宇宙から眺めているのと同じと考えればいい。地球の雲ほど短時間の変化はないにしても少しづつの変化は起こっている。小赤斑が出現して注目を浴びたり眼が離せない対象と言える。



土星
★土星

 土星は0等星くらいなので、木星よりも約1/6暗い。それだけ露出時間を長くしなければならないので撮影も難しくなってくる。シーイングの良し悪しが問題になる。環の傾き具合の変化やカッシニ・エンケの隙間などを写すことが主体になるが、土星本体にも目を向ける必要がある。木星ほどではないが白斑が現れたり模様の変化があるからだ。カッシニの隙間から外の環は内側に比べて暗くなっている。この辺の違いを頭に入れて露出時間を決めてやる必要がある。逆に露出がオーバーになると、細かなところがつぶれてしまう。木星より微妙な調整が必要だ。

2003年火星大接近2005年火星大接近
★火星

 他の惑星でも同じであるが、観測時期は地球に近づく衝のころをねらうのがいい。この時期は視直径も大きいし、観測時間も夜半前で身体的負担も少なくて済むからだ。
火星は約2年2ヶ月ごとに接近するが、接近の中でも大接近と呼ばれる約15年ごとの接近はねらい目だ。視直径の変化、極冠の消長、模様の変化など接近前後の数ヶ月を見続けると火星の変化を楽しく見ることができる。火星は24時間強で自転しているので毎日同じ時間に見ていると、見ている場所はほとんど変わらない。そのため、見たい模様(大シルチス、太陽湖、子午線の湾など)がいつころ見えるのかをステラナビゲーターあたりで探っておき、その時間に観測するのが効率的と言える。



★金星


 金星は去年あたりからはまり出した対象だ。それまでは夕方や明け方の比較的低空での撮影を試みていたが、空気のゆれが大きくて満足な写真が撮れなかった。そこで撮影時間を思い切って昼間にしてみたわけだ。シーイングは格段にいい。この時間差撮影が功を奏した。金星では表面の模様はほとんど解からず光る雲状にしか見えないが、形状と大きさの変化は結構楽しめる。視直径の変化が極端だからだ。内合に近いとき、青空を背景にした大きな三日月状の姿は何ともいえない感動を引き起こす。金星を見るたびに金子みすゞの「星とたんぽぽ」の詩が浮かんでくる。金星は「真昼の星が確かに実在する」のを実感できるいい対象だ。

金星の位相変化

    星とたんぽぽ


   青いお空のそこふかく、
   海の小石のそのように
   夜がくるまでしずんでる、
   昼のお星はめにみえぬ。
      見えぬけれどもあるんだよ、
      見えぬものでもあるんだよ。

   ちってすがれたたんぽぽの、
   かわらのすきに、だァまって、
   春のくるまでかくれてる、
   つよいその根はめにみえぬ。
      見えぬけれどもあるんだよ、
      見えぬものでもあるんだよ。


記:2006/7/15