朗読


朗読  
人間が声を持って、話すようになってから
久しいが、声の持つ力を失いかけているの
ではないかと思えるときがある。
松丸春生(まつまる はるお)さんによる「
読 声のおくりもの
」は、46億年前の地球
の誕生からひもといて声を持ち、活字を持ち
現代にいたるまでの過程をまず描いている。
そして、活字で失わわれてしまいそうな「間」
の問題など、微妙なニュアンスを読み解く手
も述べておられる。
この本を読むと普段の会話の中でも、話し言
葉の表現法に注意せねばならないことが多々
あることを痛感させられる。
 そういえば、ベストセラーになった15歳の少
年と36歳の女性の切ない恋の物語を描いた
ベルンハルト・シュリンクの「朗読者」も、朗読
の力を描いたものと言える。
 ドラマを演じる俳優のセリフ、ひとり舞台で朗
読する俳優、詩人あるいはミュージカル、ボー
カル、それらもろもろの試みの中に声に対する
思い入れがあるのだろう。
そんなことを、ふと考えさせられた一冊だった。

中でも、特に印象に残ったのは次のことばで
ある。

 話すとは、声で書くこと(描くこと)。
 聞くとは、声を読むこと。
 読むとは、文字の奥の<声>を聞くこと。
 書くとは、心の<声>を文字で話すこと。


「朗読 声のおくりもの」(松丸春生 著)平凡社新書