和鏡の文化史



鏡の歴史は古い。世界では紀元前6000年ころから黒曜石を研磨した鏡からはじまったとされている。日本では弥生時代に朝鮮半島で製作された製品が海を渡ってもたらされた。それ以来いろいろな鏡が海外から入ってきたがそれを日本流に変形していき、日本独特の和鏡が成立していくことになる。
日本独特のものに発達していったのは主に鏡の背に描かれる文様にある。初期の鏡では鏡背の中央に突起物のつまみ(鈕:ちゅう)があって、絵を書くにしても中央に邪魔者があると絵として成立しにくくなる。そこを和鏡の場合はしだいに突起物を取り除きひとつの連続した画面に自由に絵を書き込むことができるようにした。これが鏡を芸術品・工芸品の世界へと導くひとつのきっかけとなったようだ。
鏡は石から始まり、銅、青銅、白銅などがその材料として使われた。黒曜石や白銅は磨くだけでも表面の反射率が増して実用になるが、その他の材料では磨いた後に錫メッキ等を施さなければ鏡としては使えない。ただ、錫メッキするためには当時は水銀を利用したアマルガム法を使っていたため、「鏡作りに子なし」と言われるほど職人の水銀中毒が慢性化していたという。
鏡の中には魔鏡と呼ばれるものもあって、鏡に光を当てて壁に映すと映像が浮かび上がるしかけになっている。これは鏡の表面に作られた微妙な凹凸が像を作り出している。
青木豊著「和鏡の文化史」(刀水書房)は、これらのことを詳しく述べている。特に鏡背の文様に関しては詳しく分類されて記述されている。文様も様々で「松・山吹・桜・藤・萩・鶴・鴛鴦・千鳥・雁・雀・・」など植物、動物、人物、架空の生物、故事など範囲は広い。
鏡の目的としても、はじめは呪術、避難など鏡が持つ明るさがそれらを寄せ付けないと思われていた。また鏡が丸い縁を持つものが多いのは鏡と太陽を結び付けていることによる。
鏡にまつわる話は範囲が広くひとつの文化史を形成している。鏡を通して人間の営みが見えてくる。
魔鏡
記:2007/2/25